批判的精神の欠片もないジャーナリズムに辟易としていたのだが、それはフランスでも同様らしい。フランスでは大資本に主要メディアが買収され、株主の意向に逆らうような記事を書いたら、編集長のクビが飛ぶらしい。
批判的メディアをいかに再生するか?
〜フランスのネット新聞「メディアパート」の編集長に聞く
http://www.labornetjp.org/news/2014/1114kikuti
買収されたフランスの三大全国紙
2004年「フィガロ」 軍需会社のダッソー社に買収
2005年「リベラシオン」ロスチャイルド財閥が買収
2010年「ルモンド」 イブ・サンローランの創立者らの実業家グループが買収
フランスの全国紙は、ジャーナリズムとは無関係の企業に買収されてしまったため、紙面の娯楽傾向が強まる一方、新自由主義政策に対する批判が封印されるなど、深刻な利益相反が生じるようになったという。また収益が落ち込む中で政府の補助金に依存する体質が強まり、政府批判が自重されるようになったという。ここら辺は、消費税を新聞だけは免除してくれという日本の大手新聞社の経営者と似ていると感じる。
そんな中、ルモンドの元編集長が立ち上げた有料ネット全国紙「メディアパート」が注目を浴びている。今日は、そのメディアパートがどのような形で批判精神のあるメディアを再興しようとしているか、書いてみたい。
メディアパート創立の目的
第一にメディアの独立性を回復すること
第二にデジタル革命がもたらした地殻変動に対応する
- 紙媒体の新聞は単価の60〜65%を紙と印刷費、そして配達費が占めています。インターネットではこれらが一切必要なく、また、情報発信の仕方も新聞と読者という一方通行ではなく誰もが発信できるという状況になり、プロとアマチュアが共存する時代となった。そんな中で職業ジャーナリズムの最良の部分を再生したいと考えている。
ネットの有料メディアに対する3つの懐疑と偏見
1.インターネット上の情報は無料が原則
2.人々がインターネットに求めているのは速報性
- よってネット上の記事は短く、そして、表面的でクオリティペーパーになじまない
3.インターネットの読者は1つの新聞を通して読まない。
- クリックひとつで別のページに飛んでいってしまい、継続的な読者がつきにくい。
この3つの偏見を打ち破るのメディアパートがやったこと
1.無料 (有料であることの意味を訴えると同時に記事の内容でも示す)
- 無料にすることは、企業の広告収入に依存することを意味します。したがって、視聴率を稼ぐため、どうしても娯楽性や大衆性に流されざるをえません。これに対して、私たちは一貫して次のことを主張してきました。質が高く、公的利益となる情報には価値があり、しかるべき対価を求めるべきである。(中略)質が高く、独創性があり、しかも裏付けのしっかりした情報を配信し続ければ、きっと読者も購読料を収めてくれるはずだ、と。実際そのとおりになりました。
2.インターネットの情報は表面的で、クオリティー・ペーパーには馴染まない
- 充実した記事
- メディアパートのニュースは、一日三回(朝8時、 昼1時、夜7時)定期的に更新されます。また、記事のフォーマットも極めて多様です。短い記事もあれば、長いものある。ときには10ページ以上に及ぶこともありますが、それでも多くの読者に読まれているのです。
- ネットを利用した中身の濃いメディア
- メディアパートでは関連記事のリンクを付けることにより、通常の紙媒体よりも充実した情報提供を心がけています。読者は、出来事を過去の記事を含めて 系統的にたどれると同時に、その歴史的背景に関する識者の解説に触れたり、フォト・ルポルタージュを見たりすることもできる。
3.インターネット上で読者は定着しない
- 現在メディアパートでは8万人の読者がいるという。その成功の秘訣は「参加型新聞」にあるという。メディアパートのサイト上には、読者のブログコーナーがあり、その考え方は「意見を表明する権利は、 記者の特権ではなく、だれにでも与えられるべき」との事。新聞のサイト上に民主的な議論の空間を設け、ジャーナリズムのプロとアマチュア、新聞と読者の間の新しい関係性を作ろうとしているという。このブログは無料で読める。
3つの要素については、第一の無料については、大企業の広告費に頼らざる負えない、無料の持つ弱点を指摘した上で、それを証明する迎合しないクオリティの高い記事で、有料の正当性を誇示している。第二のクオリティペーパーになじまないというのは、要するにそれは単なる偏見で紙媒体以上のクオリティのある内容で説得している。例えば、その記事の内容に関する過去の出来事、歴史的背景や識者の解説、フォトルポルタージュなど。第三の読者を定着させるという点については、読者ブログなどを開設し、参加型のメディアとなっている。
1.有料であることで迎合しないメディア
2.より高いクオリティ
3.参加できる能動性から生まれる定着性
...といったところだろうか。
重要な出来事にフォーカス
- 私たちの読者は、本誌を唯一の情報源にしているわけではなく、他の媒体からも、すでに多くの情報を取り入れています。ですから、私たちの役割は、すべてのニュースを網羅することではなく、とくに重要だと思われる出来事を取捨選択し、伝えることなのです。
情報というジャングルを照らす光であれ
- 今日の状況を説明する際に、私は「未開の森」という比喩を好んで使っています。インターネットの世界は、情報が繁茂する「未開の森」なのです。そこでは、草木が生い茂り、空まで覆い隠されている。もはや時間もわからなければ、過去や未来の感覚もない。そんな鬱蒼とした情報の森のなかで、私たちはジャングルを照らす光であろうとしているのです。
メディアパートを見て思うのは、読者と一緒になって新聞を作っていることだ。編集部と読者が二人三脚で情報を発信している。資本的に独立性の高い立場から質の高い情報を読者に提供し、読者は、その情報から、ブログなどで自分の意見を発信する。言論というものをボトムアップで作り上げていく、雑草のようなメディアといえる。この雑草は踏みつけられても、また生えてくるだけのバイタリティがある。なぜなら、人々は真実に飢えているのだから。彼等が真実という肥料を社会に蒔くのであれば、そこから、言論という木が育つであろう。その木の木陰に多くの人々が集うような社会が私には見える。