2015年6月24日、高効率で低コストな次世代太陽電池として期待されているペロブスカイト太陽電池が、低温、溶液プロセスで従来より耐久性が高く高効率な太陽電池の作成が出来たと物質・材料研究機構(NIMS)が発表した。
国立研究開発法人:物質・材料研究機構のプレスリリース
低温・溶液プロセスで高効率・高信頼性ペロブスカイト太陽電池を実現
http://www.nims.go.jp/news/press/06/201506240.html
低温・溶液プロセスで高効率、高信頼性の新型太陽電池の作製に成功 (1/2)
http://eetimes.jp/ee/articles/1506/25/news087.html
ペロブスカイト太陽電池の特徴
1.安価な方法で作製できる。(高温プロセスや真空プロセスが必要ない)
2.比較的に安価な材料で作成できる。シリコン(高い)→鉛(安い)
3.500nmの厚みでほぼ100%の光を吸収できる。
4.1V程度と高い開放電圧が得られること
しかし、メリットが多いペロブスカイト太陽電池も課題があった。
1.高い光電変換効率が得られるものの、発電効率が安定しなかった。
2.電圧掃引方向によって得られる光電変換効率が異なる現象(ヒステリシス)
- 変換効率が高いということの信ぴょう性も疑問視されていること
3.数回の測定で素子が劣化するなど耐久性に問題
この問題について、NIMSは、相互拡散法(Interdiffusion method)と言われる作製プロセスを用いて、塩素を含む材料を添加する新しい作製方法を開発し、上記の課題を解決した。この作製方法で「優れた光電変換効率と下記の特徴を有するペロブスカイト太陽電池を低温・溶液プロセスにて実現することに成功した」という。
1.低コスト:低温・溶液プロセス
- 低温:高温処理を必要とする金属酸化膜が不要
- 処理温度は最高でも140度程度、実用上は120度未満
- 低温なのでプラスチックなどを使った軽量・フレキシブルな太陽電池が可能
2.耐久性
- 2カ月以上にわたり、ほぼ初期性能を維持(素子:ガラス封止)
3.信頼性
- ヒステリシスが発生しない
- 電流−電圧曲線でヒステリシスは観測されず、「ヒステリシスは電圧掃引速度に依存するといわれているが、電圧掃引速度にも依存しないことがわかった」
つまり、耐久性や信頼性の問題が新作製法ではほぼクリアできたという内容らしい。ただ、まだ耐久性のテストは2ヶ月程度であるため、それがどの程度まで耐久性が確保できるのかという点については…
- 「優れた耐久性を有する本素子を基に、太陽電池内部におけるペロブスカイト結晶状態やペロブスカイトと接する各電荷輸送層の界面状態について、等価回路モデルやインピーダンス測定などによる解析を進めて性能との相関関係を明らかにし、次世代太陽電池の高効率化と耐久性のさらなる向上に貢献する」
…とのこと、要は、より詳細な解析をし、さらなる高効率性、耐久性を追求するということらしい。特に耐久性能のメカニズムを解明し、実用化に必要な性能を確保するということのようだ。
発電効率も耐久性も、かなり筋のいいのができつつある。ペロブスカイト太陽電池は2009年に発見され光電効果が報告され、たった6年で発電効率が20%台まで行った非常に筋がいい発電素子であったが、耐久性や信頼性に問題があった。どうやら、この新作製法によって、2カ月以上にわたり、ほぼ初期性能を維持するなど、大きく実用化への道が開けてきたようだ。このペースで行けば、2020年までに7円/kWhくらいの平面型太陽電池が出来てもおかしくない。7円/kWhというのは、火力発電所の発電コストであり、このレベルを超えると、太陽電池の方が安くなってしまうのだ。
1秒間で再充電、フレキシブルなアルミニウム電池
http://eetimes.jp/ee/articles/1504/17/news061.html
東工大、レアメタルを使わない透明導電フィルムの製造法を開発
http://ascii.jp/elem/000/000/913/913128/
これにレアメタルを使わない透明導電フィルムやアルミニウムイオン電池の実用化が重なっていけば、低コストな太陽電池と充電池の組み合わせで、世界のエネルギー問題が飛躍的に改善される可能性がある。こういった技術の進歩は、地域に偏在する地下資源に依存する社会が終わりつつある事を示しており、石油のために軍事力の行使が必要だという安部政権の主張を真っ向から否定してしまうほどのインパクトがある。日本は、こういう優れたエネルギー技術によって、エネルギーを自国で確保し、平和の国でいる方がいいと、この研究成果を見て思った。