Intel-Micron連合が、新しい3D NAND技術の概要を発表した。
ついにベールを脱いだIntel-Micron連合の超大容量3D NAND技術
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/semicon/20151210_734478.html
その前にNANDFlashの技術用語を説明する。
SLC, MLCそしてTLCについて(NAND型フラッシュメモリのまとめ)
http://blog.livedoor.jp/xesea/archives/1591530.html
NANDフラッシュには、一つのメモリセルに複数ビットを記録する多値化技術がある。これはしきい電圧の強度によって記録するビット数を可変させるもので、大容量化に効果があるが、反面、速度と信頼性が落ちるというデメリットがある。
SLC:single-level cell(ひとつのメモリセルに1bit記録:通常のメモリ)
書き換え回数:10万回 書き込み速度:14MB/s
MLC:Multi-level cell(ひとつのメモリセルに2bit記録:多値化メモリ)
書き換え回数:1万回 書き込み速度:7MB/s位
TLC:Three-level cell(ひとつのメモリセルに3bit記録:多値化メモリ)
書き換え回数:1000回 書き込み速度:5.6MB/s位
現在、Intel-Micron連合は2015年3月にMLCで256Gbit品、TLCで384Gbit品(32層)の出荷を開始している。多値化するたびに書き込み回数が一桁づつ落ちているが、これは書き込みの仕方を調整したり、エラー訂正をするなどして信頼性を確保している。
2015年3月
1層4Gbit(SLC)8Gbit(MLC)12Gbit(TLC)
32層128Gbit(SLC)256Gbit(MLC)384Gbit(TLC)
2016年2月(推定)
64層256Gbit(SLC)512Gbit(MLC)768Gbit(TLC)
今回の技術発表は、その大容量のフラッシュメモリについてである。現在のフラッシュメモリは多値化の他に積層することで容量を稼いでいる。なぜメモリセルを多値化したり、積層するなどして、微細化を避けようとするかと言うと、微細化するほど、隣り合うメモリセルの間で電気的な干渉が発生し、時間が経過するとメモリセルの電荷量が変化していくという問題がある為だ。そこで登場するメモリセル技術がチャージトラップ方式と浮遊ゲート方式である。
メモリセル技術
電荷捕獲(チャージトラップ)方式
Samsung
SanDisk-東芝連合
SK Hynix
浮遊ゲート方式
Intel-Micron
これらの技術方式の目的はメモリセル間の電気的干渉を抑えて、記録信頼性を高める事にある。浮遊ゲート方式のメリットはチャンネルを共有するメモリセル同士が、きちんと電気的に分離されている事であり、データの記録信頼性を高める事になる。これに対し、チャージトラップ方式の3D NANDでは、チャージを捕獲する酸化窒化膜が縦に隣接するメモリセル間で連続しており、電気的な結合が残る。このように電気的な相互干渉の問題を考えると浮遊ゲート方式の方が、微細化しても絶縁している分だけ電気的干渉が抑えられ、データを安全に記録できる事になる。つまり微細化に有利なのだ。講演では、20nmのプレーナ技術で製造したNANDフラッシュメモリと比べ、しきい電圧のばらつき(多値化のバラつき)はおよそ半分に、隣接するメモリセル間の電気的な干渉は約5分の1に減少したとの事。つまり、浮遊ゲート方式は多値化、記録信頼性、微細化による大容量化にも優れていると言う事になる。
しかしながら、多値化するたびに記録信頼性が一桁づつ低くなることは否めないので、Intel-Micron陣営は別方式メモリを提案している。それが3D-Xpointである。恐らく動画などの大容量で書き換え回数があまり多くないであろうデータは、3D NANDフラッシュで記録し、OSやアプリケーション、書類などの小容量で書き換え回数の多いファイルについては、3D-Xpointで記録して欲しいと考えているのだろう。
各メモリ間の書き換え耐性
フラッシュメモリ 1千回 10の3乗(TLC:3bit多値化)
フラッシュメモリ 1万回 10の4乗(MLC:2bit多値化)
フラッシュメモリ 10万回 10の5乗(SLC)
3D XPoint 1億回 10の8乗
DRAM 1000兆回 10の15乗
Intel、NANDの1,000倍高速な不揮発性メモリを開発
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/20150729_713996.html
さて、大容量化に突き進む3D NANDだが、そのコストは現在どの程度なのだろう。冒頭で紹介したページに、それがのっていたので紹介すると…
2015.9.28現在
64Gbit品 2.4ドル 288円(SLC) 1GBあたり36円
HDD 3TB外付けDrive 10480円 1GBあたり3.5円
大体10倍の開きがある。しかしながら、これがTLC(3bit記録)を使えば192Gbitとなり、差が3.3倍程度まで縮小する。そして、2016年の2月に開かれるISSCCで、より積層度を高めた768Gbit品(TLC:3bit多値化品)が発表されるかもしれないとの事なので、その768Gbit品が2.4ドルで販売される時期になると、HDとの差は1.6倍程度にまで縮小する。つまり、本格的にHDDとの置き換えが進み始めるのだ。恐らくその頃には、3D XPointメモリの製品も発表されるであろう。そして、2020年頃には、HDとSSDのコストは、同じになり、メカニカルドライブは廃止される。そうなるとメモリ階層は以下のようになるだろう。
CPU(直付け)
HBM2 16〜32GB
(DDR4/2133×2=34GB/s→HBM2:1TB/s:29.4倍)
DIMM
3D XPoint 64〜128GB(推定16GB/s:OSやアプリ、書類などが入る)
(USB2 HDD:30MB/s→3D XPoint:16000MB/s:533倍)
PCI-Express-USB 3.1/Thunderbolt
3D NAND 2TB(320MB/s 動画や音楽などのファイルが入る)
(USB2 HDD:30MB/s→SSD:320MB/s:10倍)
つまり、HDDがなくなる時代が来る。今回のインテルマイクロン陣営の発表は、HDDをSSDに置き換える主要技術の発表なのだ。2020年には、メモリ階層がリニューアルされ、各メモリ階層のデータ転送速度が従来より一桁上がるので大幅な体感速度の向上が見込めるだろう。起動時間とかはなくなる。どんなアプリも一瞬で使えるようになる。CPUとGPUもメニーコアプロセッサになって統合される。まるでスーパーコンピューターが手のひらに乗るような状態になる。
2020年に2TB(1Tbit:16Gbit64層×16個)のSSD(MLC)を2台購入してRAID1にして、読み込み速度は2倍の640MB/sにしたいと思う。万が一壊れても、もう一つのDriveが生きているから安心して使える。