TPPでコメを失うのは、食料自給、エネルギー自給、治水を損なうおそれがある。というのは、コメを生産する副産物である稲わらが発電用の燃料として活用できる上に、水田を治水設備として活用すると、現在、日本が保有しているダムの貯水量と同等の蓄水効果があることが分かっているからだ。
1.食料自給としてのコメ
- 現在日本の水田面積は260万ヘクタール、そのうち使われているのは160万ヘクタール、使われていない休耕田が100万ヘクタールある。福島第1原発の放射能汚染で使えなくなった農地が全体の1/4と見積もっても、実に195万ヘクタールの水田があることになる。
- 汚染された農地
- まず、第一に、放射能汚染された農家に対し、通貨発行で賠償をした上で休耕田を活用すれば、汚染されたコメが出荷されることはなくなり、安全なコメが供給できること、第二に、汚染されて使えなくなった水田は東北に集中しており、残った水田の多くが二期作が可能な地域にあるため、これを活用して、飼料米の生産をすることで、小麦(450万トン)や飼料用のトウモコロシ(1200万トン)に相当する生産量が確保でき、食料自給率を大幅に引き上げることが出来る。
- 飼料米/米粉用米に適する「ミズホチカラ」、「やまだわら」の選定と多収栽培法
- http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/nourin/noken/seika/H25PDF/G02.pdf
- 食用米:やまだわら: 9トン/ha 92万ヘクタール 830万トン
- 飼料米:モミロマン:10トン/ha 165万ヘクタール 1650万トン
- 合計 : 257万ヘクタール 2480万トン
- 内62万ヘクタール(二期作)
- 食用米を多収穫米の「やまだわら」(5.2t/ha→9.0t/ha)に切り替え、飼料米の生産によって、牛、豚、鳥の飼料を自給し、同時に、米粉にすることで小麦の代替として活用する事で、食料自給率を大幅に上げることが出来る。使える農地を195万ヘクタールとすると、足りない62万ヘクタールは二期作で補うなどすれば、日本は水田を活用することで、米、小麦、飼料を自給できる。現在の39%という非常に低い食料自給率から脱却できる。現在、日本は貿易赤字国であり、この状態が続くとすれば、外貨に依存する輸入食品に依存するのは、短期的には問題ないにしても、長期的には国民が飢える可能性を考慮しなければいけなくなるだろう。よって、食料安全保障上、TPPに入って、関税を撤廃しコメ農家を潰すことは得策ではない。長期的に見れば、自殺行為と言える。また、最近の世界の異常気象から考えて、コメを安く輸出してくれる国が常に安定して生産量を確保できるかわからない。異常気象で生産量が減って、コメ価格が高騰し、同時に日本が貿易赤字で外貨がなかったら、それは高いコメとなると同時に、発展途上国と同様に日本が食糧危機になる可能性もある。また、食料を輸入に依存することは、貿易赤字の原因ともなり経済的にも得策とはいえない。
2.エネルギーとしての水田
- コメと同時に生産される稲わら、従来、これらは肥料にされたりしたが、稲わらの肥料としての価値は低く、あまり有効には活用されてこなかった。しかし、コメの1.2倍程度の発生する稲わらは、食料自給率を確保するためにコメの生産量を現在の830万トンから2480万トンに引き上げると、2976万トンにもなる。こういった有機ゴミを圧縮して固めてバイオ石炭にするというバイオコークスというものがある。石炭と同様に機能するという。効率は乾燥有機材料で85%、ウェットな原料だと75%という。
- バイオコークス(有機物を圧縮して固めた石炭と同様の機能をもつ固形物)
- 近畿大学:バイオコークス
- http://www.kindai.ac.jp/bio-coke/
- バイオコークスの原理
- http://www.dowa-ecoj.jp/sonomichi/biocoke/02.html
- つまり、2976万トンの85%をバイオコークスに出来ると、このエコな石炭を使って、石炭火力発電を動かすと、どのくらいの電力が発生するか計算してみる。通常の石炭と同様の熱量があるというので、1kgあたり、7300kcal、発電効率40%として計算する。
- 稲わら:738億kWh(稲わら2976万トンをバイオコークスにして発電)
- 稲わら297.6億kg×バイオコークス化85%×熱量7.3kWh×発電効率40%=738億kWh
- 日本全体の発電量は9300億kWh程度なので、大体8%程度の電力となる。つまり、食料が自給できる上に電力も自給できる。さらに放射能汚染で使えなくなった水田を中心に1kwhあたり5円程度の設備コストである集光型太陽電池を活用すれば、電気自動車が普及して、その蓄電量から計算した最大の電力生産量は2000億kWh(発電効率36%:9万ha)これと稲わらによるバイオコークスによる発電量と合計すれば2738億kWh現在の29%の電力を自給できることになる。
- 水田を活用した発電(2738億kWh:原発の発電量2500億kWhに匹敵)
- ・集光型太陽電池:2000億kWh(汚染された土地: 9万ヘクタール)
- ・バイオコークス: 738億kWh(コメの稲わら :195万ヘクタール)
- 農家に対して支払った賠償金を、こういった設備の購入に使ってもらえば、原発に変わる安全な電力源を手に入れたも同然である。また、地域でエネルギーを自給することは、地域経済の活性化になり、結果として、国内経済の活性化も図れる。バイオコークスを電力源として安く生産できるのも、それはコメの生産の副産物として自動的に手に入るものだからであり、それをTPPに入ってコメを潰したら、安いエネルギー源をわざわざ捨てる事になる。また、これはバイオマス燃料であるから、二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロであり、環境にも優しい。出来た灰はセメントの材料にもなる。セメントの材料にするには、放射能汚染されたものではダメなので、倍賞はきちんと行って汚染されていない農地で生産することが求められる。水田を活用すれば、エネルギーを低コストで生産でき、省エネ、地熱、風力などと組み合わせれば、日本の電力エネルギー自給率は90%台に向上するだろう。稲わら以外のバイオマスを使えば、この図の中の石炭火力の部分の燃料がバイオコークスとなり、92%の自給率となる。
- しかも環境にも優しく、さらにこういった技術を世界に販売すれば、輸出産業にもなり、同時に個々の国が食料とエネルギーが自給できるようになる為、エネルギーによる戦争を回避でき、安全保障上も有利となる。しかし、TPPにはいって、コメ農家をつぶし、エネルギーを輸入に頼ると、貿易赤字の原因になる上に、化石燃料を使えば温暖化の原因ともなり、異常気象によって輸入食品が安く手に入らなくなる可能性もあり、経済、食料、エネルギーの観点から、TPPに入ることは得策ではないといえる。
3.治水としての水田
- 日本の多目的ダムの38.7億立法メートル
- これは、195万ヘクタールの水田で割ってやると、水深19.8cm程度である。つまり、水田に小型の水門を設けて、それを無線制御してダムの様に使えば、現在のダムに匹敵する貯水量を確保でき、洪水対策にもなるのである。
- 関東農政局
- http://www.maff.go.jp/kanto/nouson/sekkei/tamen/04_3.html
- TPPに入って、エネルギーを輸入に頼り、化石燃料を燃やして、温暖化を進行させ、異常気象により大型台風が起きるようになったとき、水田がTPPによる関税撤廃でなくなってしまったら、洪水の被害を倍増させることになるだろう。
まとめ
- 水田の持つ、食料生産能力、エネルギー生産能力、治水能力を考慮に入れると、TPPに入って、それを潰すことは、意味が無いばかりか、将来において日本人が飢餓に陥ったり、食料やエネルギーを外国に依存しているため、国内経済は疲弊し、また洪水の危機にも見まわれ、安全保障上ものぞましくない結果を招きかねない。つまり、日本がTPPに入って水田を潰すことは、損得からすると損のほうがはるかに大きい。きちんとした計算をすれば、日本はTPPに入らない方が得策である事がわかる。エネルギーや食料が自給できたら、外貨が必要ないので貿易赤字もなくなり、内需が拡大するので国内経済は安定する。その安定の礎を破壊するのがTPPによる関税撤廃である。自動車の関税撤廃は、アメリカに20年後に引き伸ばされるとの事なので、日本にとってTPPは百害あって一利なしである。失うもの、食料、エネルギー、安定した経済、得るもの、アメリカとの20年後の自動車の数%の関税、収支からみて完全に赤字の取引である。まったく無意味であるばかりか大損害である。
- 自動車関税、農産品と同時撤廃 TPPで米が日本に20年猶予案
- http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140223/fnc14022308020003-n1.htm
- 最後に世界的な経済学者、故宇沢先生の言葉で締めたいと思う。
- 宇沢弘文氏:TPPは「社会的共通資本」を破壊する (2011年2月26日)
- この動画は有料なので途中で止まってしまうので、このブログにその内容がある
- http://blog.goo.ne.jp/yampr7/e/95b1833e010dc3641cf9107504cb7d45
- 宇沢先生いわく(動画の53秒目から)
- パクス・ブリタニカ(大英帝国)の頂点にいたその時にですね。日本をターゲットにして、列強が力を合わせて、日本...開国に迫ったと...いうのが第一回の開国、第二階は、先ほど言いましたように日本敗戦の悲惨なときに、日本...アメリカの完全な下僕になる政策をとったわけですね。で、第三の開国が今度の...(TPPの事)ということがですね、一国の総理がですね、そういう発言そすると、いうことはね...全く信じられないと思うんですね。今、日本の農村の再生を考えると、そのためにはですね。社会的共通資本としての農村という認識をハッキリ持って、そして、単に農業の生産基盤だけでなくて、農村に住んで色んな仕事をして、そして、生きていくと、いうことが可能になり、また、それによってですね。豊かな、文化的な、そして人間的な生活がね、営むことが出来るようなね条件を作ると、そのために、実は様々な暮らしの関税政策が必要なんですね。関税っていうのはね。それぞれの国がね。社会的安定と、それから持続的経済発展を求めてね。そして独自の立場から、関税体型を考えていくわけですね。あの〜...どの国もそうです。それを全く根拠のない自由貿易の命題をね、使ってね、関税障壁を撤廃する事が、あの〜なんかこう..素晴らしい世界を生み出すというようなね。「虚構」にとらわれていると、それはね。ジョン・ロビンソンも言ったように支配的な帝国にとって都合のいい考え方であるということは、私、繰り返し強調したいと思うんですね。で、そのコモンズの考え方をね、社会的資本(よく聞き取れなかった)、自然環境とか、道とか、交通、ガス、水道、それともう一つですね、教育とか医療とか、あるいは金融制度もそうです。司法、行政、そういった社会が円滑に...(ここで終わり、この続きは有料)