リチウムイオン電池に関する発表が2件あった。この2件を組み合わせると非常に素晴らしいので合わせて紹介する。
1.JAEA、海水からリチウムを抽出する技術を開発
- 日本原子力研究開発機構(JAEA)の星野毅研究副主幹らの研究チームが2月7日、海水からリチウムを少ないエネルギーで回収する事に成功したと発表した。
- マイナビ:日本がリチウム資源超大国になれる!?
- JAEA、海水からの回収技術を開発 2013.2.10
- http://news.mynavi.jp/news/2014/02/10/241/
- 仕組みは「イオン伝導体」という膜を使い、分離過程で電気を使わず、逆に電気を発生させながら海水からリチウムを分離するという革新的なものだ。何となく、海水を電池に見立て、イオン伝導体という膜を通すことで電気を発生させながらリチウムを分離するというように見える。
- 今まで、海水からリチウムを取り出すには、抽出するのにコストがかかりすぎて、大量(海水:2300億トン/地中:3000万トン)にあることは分かっていても、資源化されることはなかったが、この手法は、取り出す際にエネルギーを使うのではなく、エネルギーを取り出してしまうというのだから、コスト的に期待が持てる。
- リチウム資源量
- ・海水:2300.0億トン
- ・地上: 0.3億トン(3000万トン)
- 【引用】
- 海水とリチウムを含まない回収溶液間をイオン伝導体の分離膜で隔離し、海水と回収溶液間にリチウム濃度差を生じさせることにより、海水中のリチウムが回収溶液へ選択的に移動する分離原理を発案し、さらにリチウムの移動と同時に発生する電子を電極により捕獲することで、電気を発生しながらリチウムを回収できる
- 【引用終了】
- 海水のリチウム回収技術の仕組み
- イオン移動を利用して、膜を介してリチウムだけが回収液に移動し、その回収液からリチウムを取り出すようだ。そして、その際に電力が発生する。ある種の電池と言ってもいい。
- リチウムが、低コストで海水から大量に回収できるとなれば、何が出来るのか、それは自然エネルギーを増やしても大量の電池を使って電力のムラを吸収できるという事である。そして、それが自国の資源で可能になり、日本が自然エネルギーだけでやっていけることを示すものだ。実は、このニュースは、単に資源問題が解決するだけでなく、自然エネルギーによるエネルギー完全自給が可能という意味を持っている。
2.ケンブリッジ大、従来の10倍の容量の次世代蓄電池の反応機構を解明
- ケンブリッジ大、従来の10倍の容量を有する次世代蓄電池の反応機構を解明
- (2014.2.3)
- http://news.mynavi.jp/news/2014/02/03/422/
- ケンブリッジ大学の先端光電子工学センター
- 緒方健博士
- Clare Grey教授
- シリコンはリチウムイオン電池の負極に用いられる。従来の炭素による電極の10倍以上の容量密度を持っているが、1つのシリコン原子は、最大で4つのリチウム原子を吸収し合金化するため、充放電中に体積が最大で300%以上、膨張収縮を繰り返すため、それが劣化に繋がっていた。そこで、その膨張収縮を緩和するシリコンナノワイヤと無秩序原子配列の定性・定量解析が可能な核磁気共鳴技術を組み合わせた新しい測定システムを開発、それにより、電池動作中の詳細な原子結合状態推移を複数回の充放電サイクルに渡り解明、その結果、負極中に部分的に使用されているシリコンの比率が急速に増加し、正極の開発が進めば、従来の数倍程度のリチウムイオン電池の開発が期待されるという。
- シリコン型リチウムイオン電池(構造)
- 難しい話なので、よくわからんのだが、要するに今までの炭素の代わりにシリコンを負極に使ったリチウムイオン電池は、充放電時に最大3倍に膨れたり縮んだして耐久性がなかった。その状態をナノワイヤかなんかを使って緩和し、耐久性を向上させ、従来の数倍程度の容量を持つリチウムイオン電池が出来るかもしれないって話のようだ。
まとめ
- もし、海水からリチウムを大量に採取できたり、容量が数倍のリチウムイオン充電池ができればどうなるか、これは電気自動車がガソリン車並みの航続距離を持つ事を意味し、そして、その電池は、自然エネルギーのムラを吸収する電池にもなる。これにより、日本は、電力を太陽電池や風力などの自然エネルギーで賄うことが出来、さらに、自動車につかうガソリンや軽油も太陽エネルギーから得ることができるようになる。つまり、日本は、外国から石油や天然ガス、石炭を買わなくていいのだ。それすなわち国際競争をしなくても、皆が共生できる社会が出来るということである。つまり、グローバル競争などしなくていい、皆が幸せに生きられる社会の礎が出来るのだ。非常に素晴らしい。政治よりも技術の話のほうが夢があっていい。これらの内容は、素晴らしい技術が出来そうだから、それを活用すれば、皆が幸せになれるって事なんだ。素晴らしい。
- この新しい電池を使って、航続距離800kmものを作るとしたら、どうなるのか、最新の電気自動車、SIM-CELLをベースに考えてみる。
- SIM-CELL
- ・航続距離:324km
- ・電池容量:29.6kWh(電池重量:推定296kg/リチウム電池100Wh/kg)
- ・車体重量:1580kg
- ・効率 :10.95km/kWh
- まず、車体は、広島大学の鉄並みの強度を持つというポリマー加工技術 結晶体(NOC:Nano Oriented Crystals)」を使う事で半減、電池も1kgあたりの容量が5倍の500wh/kgになると想定、車体重量を半減790kgとする。
- ・航続距離:800km(ガソリン車並)
- ・電池容量:36.5kWh(電池重量:73kg/シリコン型リチウム電池500Wh/kg)
- ・車体重量:790kg
- ・効率 :21.9km/kWh
- そして、この電池を使った車が全国の6000万台と言われる乗用車に普及し、その内5000万台が電池として使用できる状態と仮定すると、その総容量は18億2500万kWhとなる。
- 電気自動車:36.5kWh
- 台数 :6000万台(内5000万台が電池として使用できると仮定)
- 電池容量 :18億2500万kWh
- 日本の2012年の電力消費量 9236億kWh、これを365日で割ると1日平均25.3億kWh使っている。太陽電池の電力生産量を年間2000億kWhとすると、太陽電池の発電出力は最大2億kW、最近のピーク消費は1億5700万kW、春先は昼間平均1億kWなので、夏のピークは余裕でまかなえ、春は最大1億kW余剰する。
- それを昼間12時間として、1日12億kWh余る計算になる。電池容量は18.25億kWhだから、余裕で電力ムラに対処できる。