児童ポルノ法の改正案が5月29日、自民、公明、日本維新の会の3党によって国会に提出された。
この法律は、一見、児童を守る良い法案に見えるが、実態は逆で、児童を危険に晒す恐れがある上に、表現の自由、言論の自由すらも覆しかねない。そのことについて説明する前に、1999年に施行された児童ポルノ法の実態について説明し、その後、この改定案の内容について説明したい。
まず、1999年に施行された児童ポルノ法から説明する。この法律の目的は「児童に対する性的搾取及び性的虐待」から守ることである。この法律によって児童をモデルにしたヌード写真などが規制され、なくなった。この法律で性的搾取は軽減されたかというと、実際には倍増した事が警察の資料から分かっている。
児童ポルノ法可決後の性犯罪の実態
- 犯罪白書 1997年〜2006年 性犯罪はP.5 1997年〜2006年
- PDF 警察庁の性犯罪の統計データ(5ページ目参照)
この統計は、法律が厳しくなったから検挙数が増えたからでは?という話が来ると思うが、これは、検挙数の統計ではなく、認知件数と言って、被害届が出された数なので、捕まった数ではなく、性犯罪者の増加を意味している。
- 児童ポルノ法施行後の性犯罪の増加率(1999年基準とし2006年と比較)
- 強姦 : 10.8%増加(2006年 203件増加:1999年比)
- 強制わいせつ:105.8%増加(2006年 4500件増加:1999年比)
- 公然わいせつ: 93.6%増加(2006年 1170件増加:1999年比)
- わいせつ物 : 3.4%増加(2006年 23件増加:1999年比)
赤い線の強制わいせつが、児童ポルノ法施行前が4000件程度だったのが児童ポルノ法施行後、数年で10000件程度にまで増え、その後8000件程度に推移し、性犯罪が倍増していることが分かる。(強姦等も増えている)このことから分かる通り、仮想媒体を規制をすればするほど、本物の少女に向かって性欲が向かっていることが分かる。つまり、この種の規制は、少女を守るどころか犯している実態がよく分かる。なぜ、そうなってしまったのか、よくよく考えてみてほしい。これを児童ポルノとして見ないで、普通の大人の女性のエロ本がなくなったと仮定してみよう。世の中のエロ本が性犯罪を起こすというのでエロ本を全部、出版停止にしますという法律ができたと仮定する。すると、世の男どもは、どうなるか、おとなしく、行儀良くするか?性欲のはけ口を塞がれたらどうなるか?別の選択肢を選ぶことになるだろう。その中の一部は、リアルな女性に類が及ぶわけだ。それは非を見るより明らかである。この問題は、奇麗事は、時に最悪の結果を招くという事。そういう奇麗事がバカにされるのは、その奇麗さに実態が伴っていないからです。言わば空虚な正義と言えます。本当に児童を守るには、本物でない紙媒体などの児童に性欲のはけ口を向けさせないといけない。
参考資料:ポルノと強姦(その1)2014.4.30追記
http://blog.ohtan.net/archives/50954186.html
米国では1970年代に比べて強姦件数は85%減ったとあり、その要因についてダマト教授によれば、同時期に普及し始めたポルノによって、強姦件数が減ったという学説がある。それによれば...
ハードコアポルノ映画「ディープ・スロート(Deep Throat)」が封切られたのは1972年であり、その後ポルノがVHS、更にはDVDでレンタルショップで簡単に借りられるようになっていく。1970年代と80年代にはポルノ雑誌も数が爆発的に増えた。やがて、インターネット・ポルノの時代となる。その売り上げは三大ネットワークであるABC、CBS、MBCの売り上げの合算額を超えるに至っている。これによって、事実上、未成年もポルノ漬けになっている。
さて、米国でインターネット普及率が最も低い4つの州で、強姦発生率は1979年以来の25年間で53%も増えたのに対し、インターネット普及率が最も高い4つの州では、強姦発生率は27%も減っていることからも明らかなように、ポルノが普及したからこそ、強姦が少なくなったのだ。
skymouseの解説:ポルノが性犯罪を誘発するのであれば、ポルノが爆発的に普及した時期に強姦件数も増えなくてはいけないのに、実際には85%も減っている。この事が、ポルノに性犯罪の抑止効果があると考える根拠となり得、逆に、その性犯罪を抑止しているポルノを規制することは、性犯罪を増やす結果となると考えられるわけだ
今回の児童ポルノ法改悪案は、警察の統計から見れば、その奇麗事そのものであり、仮想の児童を規制することで現実の児童を危険に晒します。いうなれば、飢えた狼を増やす法律です。ですので全国の子供を持つ親御さんは、この法律には絶対賛成してはいけません。こんな法律が可決してしまったら、子供さんが危険です。エロ本をなくせば性欲ながなくなるというのならば、なくせばいいのです。しかし、現実の問題は、エロ本ではなく、人間の本能なのです。本能を確実にコントロールすることが出来ない以上、代替手段である仮想メディアを規制してはいけないのです。この法律を施行したら性犯罪が倍増したのですから、実質的には児童ポルノ法は、児童を守っておらず、性犯罪倍増法と言っても過言ではないでしょう。
さて、紙媒体などの仮想物を規制すると、どういうことになるかという現実を警察の資料から説明した所で、今回の自民、公明、維新が国会に提出したものを見てみる。ITmediaの記事がよく書けているので、これを参考に書いてみたい。
ITmedia:児童ポルノ禁止法改定の真の目的は何か? 単純所持禁止、マンガ・アニメ
「調査研究」への懸念
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1305/27/news094.html
今回の児童ポルノ法の改悪案
1.単純所持
(1)適用上の注意規定の明確化
- 『本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用することがあってはならない』とあるが、それは、この単純所持を禁止するという項目が、ある種、そういうものを持っているという疑いだけで家宅捜索できるという非常に強力な権限を持っているため、本来の目的以外で乱用する事なかれという条文が最初に来るのだが、そのために必要な法的プロセスが全く明示されていない。ただ条文に禁止条項があるだけで、その条文を守るために何を具体的にするのかということが全くない。これは、あってないような条文に見える。これに違反したものに罰則を加えるなどの条項がない。
(2)児童ポルノの所持等の禁止
- 持っていたら犯罪として捕まえることが出来る。しかし、特定の情報を持っているだけで、被害者の存在しない者を犯罪者にしてしまうとは、刑法の基本原則から逸脱している。
(3)自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等についての罰則の新設
- 憲法39条
- 「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない」
- つまり、児童ポルノを保有しているだけで罪と出来るという被害者の存在を前提とする刑法の基本原則から逸脱した法律であり、その上、憲法39条により、過去に遡って罪を設定することは出来ないとあるため、この法律自体を認めることは、恣意的な刑罰を規制するための被害者の有無によって罪を定める刑法の基本、過去に遡って罪を規定できないようにする憲法の刑法概念を超越した法律が存在してしまうことになる。これは、刑法秩序の崩壊を意味する。それの意味する所は、恣意的な刑罰の実現を可能とし、それを過去に遡って罪に問うことが出来る極めて強権的な刑法の前例となりうる内容である。つまり、権力者は、都合の悪いものが出てきたら、被害者がいなくても、自分に都合の悪いものを罪と規定し、恣意的な刑罰を問える法律を作り、それが過去に遡って実行できる前例を作ってしまう。いわば独裁権を担保する法律の前例を作ってしまうといえるほど、強権的な前例を作ってしまう。近代法では、恣意的な裁定を防ぐため、罪に出来る前提条件が揃わないと、罪に出来ないのだが、そこに主観で裁けるとか、被害者がいなくても罪に出来るとか、例外を設けてしまうと、そういった法体系の秩序が崩壊し、ダムが決壊するかのように、独裁や恣意的行為を擁護する法律が作られてしまう。法律は例外を作ってしまうと破綻してしまうのである。
- 結果として、過去に発売された写真集や漫画、アニメ、ゲームであっても、持っていたら逮捕、罰金の可能性がある。しかし、これは、そういったものを持っていない市民にも影響のある法的な前例になる。つまり、被害者のいない絵を持っているだけで罪と出来るというのは価値観で裁くということ、その上、それが過去に遡って罪に問えるのだから、スゴイ法律なのである。平たく言うと、価値観で裁くのだから「俺の気に入らない奴は罪にする。それを過去に遡って捕まえる」という法律なわけだ。つまり、特定の思想弾圧を可能とする法律と言える。そういう今回の児童ポルノ法の改悪案は、その前例となりうる内容といえる。
(4)インターネットの利用に係る事業者の努力規定の新設
(5)被害児童の保護のための措置を講ずる主体及び責任の明確化
- この条文は、(1)〜(4)の危険な内容に比べて一番まともな内容、本来、この条文が一番に来るものと言えよう。しかし、この条文が一番最後に付け足しのように来るあたり、今回の改定は児童を守ることよりも過去にさかのぼって児童ポルノを根絶することを目的とした改定に見える。ある種の思想弾圧ではないかと思う。問題は、この種の思想弾圧的な法律が将来的に適用範囲が拡大解釈されて、本格的な思想弾圧になりはしないかという事である。過去の治安維持法も、その毒牙を磨くのに三段階あった事から、その懸念がある。この児童ポルノ法改悪案は、大体、第二段階に属する。
- 治安維持法(3段階)
- 1.特定の情報を規制できる。(1999年の児童ポルノ法がそれに該当する)
- ・ポルノなど、規制しやすいものが標的にされる
- 2.法律の強権化(今回の児童ポルノ法改正案)
- (まだ適用範囲が限定されているので気づかない)
- 3.規制する情報の範囲が拡大されて天下の悪法、治安維持法となる。
- 市民の自由な言論が規制され、民主主義が死んだ。(この時になってやっと気づく)
- 既に第二段階まで来ている。これに自民党の憲法21条改悪案が加わると、あの治安維持法が完全復活するといえる。というのは、今まで憲法がブレーキをかけてきた情報統制行為を秩序を維持するためならば、それを覆しても良いというバックドアが憲法に明記されてしまい、事実上、憲法21条が無力化されるから。
現行憲法 第21条 | 自民党改憲案 第21条 | |
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保証する。 | 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保証する。 2 前項の規定にかかわらず、公益および公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。 |
この中の秩序という言葉が引っかかるのは、治安維持法も、秩序を維持するためという名目で市民に対し、言論弾圧したからだ。そのため、現在の日本国憲法は、言論弾圧や独裁にならないように、法律の恣意性を厳しく戒め、法体系の強権化を規制してきた。そのために幾つものブレーキとなる条文があるのだが、それを現在の安倍自民党政権は尽く無視している。つまり、彼らの向かっている先は、独裁である。国民の権利を制限し、自らの権益を最大化する目的としか思えない、憲法の逸脱ぶりである。