SKY NOTE

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韓国ドラマ「トンイ」に見る権力闘争

毎週、衛星放送のトンイを見ているのだが、今日は、トンイのライバルであるヒビンの失脚が描かれていた。ヒビンの息子は、皇位第一継承者だが、病気で子供が出来ない体。そこでヒビンは、トンイの子供、皇位第二継承者であるトンイの息子のヨニングンを殺そうとする。しかし、失敗し、その際に息子のヨニングンをかばったトンイも切られてしまう。ヒビンは捕らえられ、そして、死を待つのみという状況の中で、子供のヨニングンは、なぜ自分が恨まれるのかわからない、自分は皇位第一継承者である兄を脅かすつもりは全くないのに...と、幼い心を痛めている姿を見て思った。

子供ができないというのは皇位継承者としては失格である。つまり、ヨニングンこそ皇位継承者としてふさわしい、つまり、正当性がある。しかし、ヨニングン自身は、兄のことが大好きで、兄も弟が可愛くて、お互いを認め合っている。しかし、どうしても、そこで争いが生じてしまうのだ。

その理由は、正統性には、権力が生じてしまうからだと思った。本人同士は全く権力のことを意に介していない子供なのだけど、周りの大人は、誰が正統な王位継承者かという事が重要であり、そのための大義名分として健康体のヨニングンは病気のヒビンの息子よりも勝ってしまった。その結果、ヒビンは、ヨニングンを殺さなければ自分の息子の王位継承権が脅かされると思った。つまり、互いがどう思っているかどうかではなく、互いの権力がどうなのかということが重要なのだ。

そう思うと、正しいことを言うと針の筵のように厳しい批判が飛んでくるのも、それが、正しいと単純に私は思っていたのだが、権力を持つ者にとっては、政治的な敵対者といえるのだ。なぜなら、私のほうが彼らよりも正しく権威が生じてしまっていたから。

私自身は相手に敵意など無く、それが正しいと単純に信じ、単純に正しいことを実践しようとする。しかし、相手にとっては、正当な権威を主張し、自分の権威を脅かす敵に過ぎない。何か正しいことを言う度に、なぜ、権力闘争をしなければならないのか?自分の考え方は、どちらかというと、サイエンスなのだ。権力とか、そういうものはあまり考えていない、何が正しいかが優先事項で、だれが一番かどうかということは、どうでもいい。ただ単純に正しい決断がされて、正しい結果がもたらされることを望んでいる。そういう意味では、私の発想は子供と同じなのだ。

論理的に筋が通り、それによって利益が生じれば、良いという発想ではなく、私が一番で、全てを得たいという欲望の元、道を誤ってしまうヒビンを思うと、不憫でならない。ヒビンの良い所は、自分の犯した罪をきちんと自覚している所、全ての悪事が明らかになると、全責任を自分で背負おうとした点は立派、自分が正しいと言いながら、悪事を成す連中とは大違いだ。ただ、印象的だったのはそう言うヒビンに対して、トンイの言葉で「宮廷や権力のせいにしないでください、これはヒビン様ご自身の決断の結果です。別の道もありました」という言葉、ヒビンには救われる道は確かにあった。それをトンイは用意していた。しかし、ヒビンはそれを手にしなかった。なぜなら、トンイは信じられても、他の周囲の人間を信じることが出来なかったから。彼女の不幸は、逆説的ながら、彼女自身のある種の高潔さから生まれている。

ヒビンが周囲を信じられなかったのは、彼女の不安、高潔であるからこそ、ヨニングンの王位継承の正統性を誰よりも理解し、それ故に恐れた。恐れるがゆえに殺すという極端な方法を選んでしまった。正しいものを恐れるのは、その正しさによって自らが駆逐されると恐れたからである。それは、これまで犯してきた罪が許されるわけがないという、彼女の心の中での高潔さが、そうさせるのだ。公平であり、高潔である部分が、自らを責めてしまう。その責め苦から逃れるために悪事を選んでしまった哀れな人だった。

トンイは、それを許すことで、皆が幸せになる事を望んでいた。しかし、そういう考え方が出来なかったのがヒビンの限界だった。そして、ヒビンが悪に染まってしまったのは、彼女のそう言う罪を許さない、ある種の柔軟性に欠ける高潔さと、それに対する自己防衛の結果として悪となってしまった。
 
そして、権力闘争の相手はトンイであることを考えれば、彼女に救われる道はあった。通常の権力闘争では救いがないように見えるが、トンイが相手である場合、許される可能性があった。ヒビンはバカではないから、それを理解した上で悩み、苦しみ、最終的には、ダークサイドに落ちてしまう。たとえトンイが許しても周囲が許さない、そう思えば自分の敵は全て滅ぼすしかないというのが彼女の結論だった。しかし、その選択を、トンイに「自分以外の他の者のせいにしないでください」と否定されてしまう。別の道があったのだと諭される。しかし、もう後戻りができないと。彼女にとって、全てが信じることができなかった。信じられないのは、自分は愛されるのに値しない最低の人間だと思っているし、そう言う事をしてきたという罪の意識があるからに他ならない。だから、私は、そういう罪の意識を背負って過ちを犯してしまうヒビンに同情の念を抱かざる負えないのだ。やっていることは許されないんだけど、そういう心の弱さを共有していると、同情してしまうのだ。そういう意味では、トンイの主人公はヒビンとも言えるほど、人間臭いキャラだ。来週は死んでしまうのか、生き残るのかわからないんだが。
 
思えば、自分の選択次第で、吉にも凶にも変わる事がある。私もヒビンのような悩みを持ったことがあるから、彼女には同情してしまう。本当に信じられる味方というものが僅かであり、相手は正しいから無制限に味方がいる。だから恐い。だから退ける。有能な部下、チャンムヨルに裏切られたあたりから、彼女の没落が始まっていたのだと思う。ここで、彼女自身、味方がいないことに絶望して、不信の虜となり、結果として自分の敵を全て滅ぼすという結論にいたってしまったのだと感じる。そういう意味では、彼女は孤独だった。彼女を最も理解し、友となり得たのは、トンイであったが、その彼女ですらも、ヒビンの孤独は理解できなかった。ここが彼女の悲劇なんだろうな。最初は悪ではない彼女が悪になっていくさまを見ていくと、前の王妃様のように全てを得ようとせずに、二番でもいいと思うことが出来なかったのが問題だった。二番でもいいのならば、トンイの子供が皇帝になっても争わず、生きる道を選ぶことが出来たであろうから。
 
思えば、最初に悪の道に入ってしまった時から、彼女自身、自分自身を愛することができなくなってしまったのだと思う。その結果、他人を信じる勇気を失い、手を差し伸べてきたトンイの手も払いのけてしまった。その意味では、不憫ではある。やっていることは許されないんだけど、不憫なのである。