SKY NOTE

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ジョブス分析:彼はなぜヒットが飛ばせたか

ジョブスの分析の際に、避けて通れないのは、彼にも失敗していた時期があったことだ。Appleから追い出されて、NeXTを設立し、1996年12月にAppleとNeXTが合併するまでの間である。それまでの彼は、今の日本と同じく、先進的なテクノロジー指向の製品を作っていた。しかし、そのすべてが失敗していた。私は、その失敗をつぶさに眺めながら、他の先進的技術(General MagicのAgentなど)もなぜ失敗したのかということを考えていた。それは需要と技術と意識のミスマッチにあると分かった。

需要があっても、意識や技術がそれに追いついていなくては、結果にならない。例えば優れた技術があり、需要があっても、それが役に立つという意識にまで高める製品がないと成功しない。NeXTは優れた技術があり、需要に応える能力があっても、それが役に立つレベルまで製品を完成させることが出来ていなかった。プロトタイプであったといえるだろう。NeXT OSは、今のMacOS XiOSの源流とも言えるOSである。その証拠に開発言語の関数の多くにNS(NeXT STEP)の頭文字が使われている。つまり、失敗したNeXT STEP OSを基盤としてAppleの躍進は始まったのである。

彼がAppleに戻る直前の時期、つまり、彼が成功する直前の時期、私は1996年の秋頃、NeXTの社員の方と話す機会があった。以下に、その詳細を記すとする。

秋葉原のNeXTのショップで会合があり、そこにNeXTの社員が現れた。彼らはNeXT OSをどう思うかという事をユーザーに直接訊ねたいということで来ていた。彼らはNeXTの開発者であり、ジョブスの部下だった。(NeXTは会社としては小さく、ジョブスと部下の距離は近かった。1992年当時で社員は540人ほど)

そこで、自分はその会合の席で、NeXTの問題点を指摘した。

オブジェクト指向が素晴らしいことはわかるが...その認識は概念で止まってしまう」
オブジェクト指向?!それが何の役に立つの?」それが一般的な目線。
GUIはそれが何であるか分かったけど、オブジェクト指向は...」
(普通の人には)「パッと見で分からないとダメ」

その意見を聞いて聞かずか、CEO就任後のジョブスは、技術用語をなるべく使わず、製品が完成するまで秘匿し、見せられる段階になって、発表するというスタイルを取った。これは、概念(技術)ではなく視覚(実物)に訴えるという自分のアドバイスにそった行動にも見えた。

「NeXTがヒットしていない理由は、Windowsの市場に製品を投入しているから」
「彼らは、継続を望んでいる人たちであり、革新を望んでいない」
「継続を望んでいる人たちに革新を与えても売れない」
「革新を望む人たちに革新を与えなければいけない」
「だから、帰っておいで皆待ってる」(ジョブスへのメッセージ)
Macはイノベーター(革新者)のためのコンピューターなんだ」
 (NeXTの社員の人が「おお〜」と言ってた)
「革新的なユーザーが常にお金持ちであるわけではない」(製品安くしてと言っている)
 (当時のNeXTの製品は、とても高価だった)
 
その後、彼は「Think different」キャンペーンをぶち上げ、異端者であること、つまり、自分たちは革新者であることを強調し、継続と決別した姿勢を貫いていった。その会合の最後にNeXTの社員の方が「スティーブに言っておくよ」と言っていた。だから、もしかしたら、自分の意見を参考にしていたかもしれないし、もしかしたら、他の人間にも相談し、同じような指摘を受けていたのかもしれない。

最後に私はブラウザを使って、こういった。
「このネットスケープのブラウザは、AcrobatのPrug-Inが入ると、Acrobatになってしまう。もし、このブラウザがAppleだとして、AcrobatをNeXTだとしたら...」すると、NeXTの社員の方は、「何が言いたいのかな?」としらばっくれていた。(笑)

上記に記した内容から分かる通り、NeXTには技術はあった。しかし、オブジェクト指向など概念的で分かりにくい技術中心の説明では、意識を満たすことが出来ず、また、NeXTの様な新しいものを、それを求めているマックユーザーに向けて投入しないことで需要にアクセスできていなかったことがあげられる。私のアドバイスは、NeXTに足りなかった意識や需要を補完していたように思う。そして、NeXTの社員は、恐らくそのことをジョブスに伝え、彼はそれを完璧なまでにこなした。それも自分の命をかけて...

傍から見ていて見事だと思った。これほど自分のアドバイスをきちんと実践できていること、それによる結果が、潰れそうだったAppleがアメリカで時価総額No.1になったことなど、極めて素晴らしい結果となったことに驚嘆している。だが、それと引き換えに彼の命を縮めることになった。だが、彼は満足していると思う。なぜなら、愛するAppleを救えたのだから。

私のアドバイスはとてもオーソドックスだ。需要のある所で製品を売れということ、この場合は、Mac市場だった。そして、意識を高めるために概念ではなく視覚に訴えるということだった。それを満たすためには、目に見えてわかる完成度の製品と需要のある市場の選別と、それらをつなげるための宣伝活動が必要だった。これらが欠けていると、成功しないのだ。

彼は美しいMac iPod iPhone iPadなど、新しい需要を極めて分かりやすいプレゼンによって示し、需要と意識と技術を見事につなぎ合わせ、成功した。

意識

  • 視覚に訴えることが重要で、そのためには目に見えて分かる結果と、美しいデザインの製品が必要だった。そのために彼は最高のプレゼンと製品プロデュース(製品のダメ出しやソフト会社との交渉など)を行った。この部分は、ジョナサン・アイブ氏とジョブス氏とのコラボレーションといえるだろう。

技術

  • 新しい技術を見定め、それを持っている会社を買収したり、開発していた。最近では音声認識AIのSiriの買収があげられるだろう。

需要

  • 製品を安く、確実に安定して供給できる体制を整えた。これはティム・クック氏の業績といえるかもしれない。そのために高価なPowerPCからIntelのチップに切り替えるという決断をしたジョブスの判断も効いている。(こういうグレートな判断は難しい)

日本は、需要を創出するための「意識」を醸成するプロデュース能力が特に足りないといえる。交渉力、プレゼン力が特に低く、ユーザーの意識を高める能力が特に低い。こういった問題を解決できる能力を有すれば、Appleのように成功できると思うが、彼ほどの能力を持っている人材を登用し、権限を与え、自由にするだけの度量が日本企業のサラリーマン重役のチキンで年老いた頭に出来るかどうか分からない。そういう意味では、新しい企業の社長、オーナー社長から、そういう人材が出てくる可能性がある。それと、忘れてはならないのは、Appleには各分野の優れた人材が存在し、そういった有能な人材を引きつける夢や魅力が社風にあったということ。夢のもてない業績発表中心の今の日本の企業では、こういう優れた人材を引きつける引力は弱いと思う。魅力的な商品やサービスを提供することが、結果として有能な人材を集めることになるということもつけ加えておくべきだろう。Appleの優れた製品やサービスは、ジョブス一人の功績ではなく、優れた人材がAppleにいたからだ。だが、それをプロデュースしたのはAppleを生み出した哲学にある。そして、その哲学の供給源は、ジョブスという事で、彼は欠くべからざる存在だったというしかない。(結局ジョブスに戻ってしまうが重要なのはカリスマ的指導者ではなく、アップル社の夢の持てる哲学であることを強調したい、それはSonyの設立趣意書に通じるものがあるが、ソニーは途中でその哲学を捨ててしまった。高級な哲学と、それを具現化するサービスや製品に共感して有能な人材は集まるのだ)あとは皆を頑張らせるためにストック・オプションが重要だと思う。彼曰く「私はストックオプションが好きだね。誰かの働きで株価が1ドル上がれば全員に恩恵がもたらされるんだから。ストックオプションを導入してからは、社員全員がアップルをどう変えるか、目の色が変わってきたと思う。」(資料:[アーカイブ1999]帰ってきたカリスマ スティーブ・ジョブスが語るアップル再生の秘密)このことは、IBMを再生したルイスガースナー氏も述べていて、ストックオプションの効果は、社員の意識を内部の評価(派閥抗争:官僚主義)から株価という外部の評価へと向けさせ、建設的な企業運営の礎になったと言っている。

  • ジョブスのプレゼン能力について書かれた本とIBMを復活させたガースナー氏の本